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2024.10.21

2024秋クレモナ出張レポートVol.2

(Vol.1 クレモナムジカ訪問 Vol.2 ヴァイオリン工房訪問 Vol.3 トリエンナーレ・ストラディヴァリ製作コンクール展示会)

【VOL.2  ヴァイオリン工房訪問】

VOL.1では毎年開催のCremonamusica についてのレポートでしたが、クレモナ訪問の醍醐味は、やはり個人の工房を訪ねるということが一番大切にしたいことだと常々思っております。狭い市内とはいえ、徒歩が基本の街中、そこに点在する工房をどういう順番で回るかというアポイントメントの作成が事前に必要になりますので毎回出発前から日程の調整に追われます。

今回も日本から大量のお土産(60個以上)を持参したのですが、オフィスを基点にし、会う順番と持って出る個数を都度考えて行動しました。昨今は私たちもSNSでタイムリーに出張の様子をアップロードしていますので、滞在中すぐに取引や訪問お誘いのリクエストも入って来たりしますが、今回は全く予定外の時間を作ることはできませんでした。以前は「自分のところには来てくれなかった」「今回連絡がなかった」ということを言われたりしたこともあったため、行動が筒抜けになるSNSの恐ろしさを感じながらも、なるべくそのようなことにならないよう誠心誠意、時間を割り振れるよう心がけています。

さて、今回は約15年ぶりとなるでしょうか、クレモナ出張は私のほかスタッフ池山が同行してくれました。今年の初めまで10年間クレモナに住み、ヴァイオリン製作の勉強と実践をしてきた彼女の交友と知識、イタリア語は頼もしいものでした。これまでなんとなくの英語でのやりとりだったのが、会社のスタッフが直に現地の言葉で話を進めてくれることは予想以上の効果を得ることができたように感じます。そういえば、Cremonamusicaの期間、どこもホテルは満室で、彼女は友人宅へ泊まってもらい、私は6ヶ月前になんとかBooking.com で民泊アパートを予約できていました。ところが、行ってみるとこのアパートは存在するものの、民泊施設は架空のもので真っ赤な詐欺掲示ということが判明したのです。後日Booking.comの調査によってお金は返ってきましたが、現地アパートのオーナーさんと話をしてくれて、架空であろうことを確認してくれたのも彼女でしたから、緊急時に現地の言葉が通じることはありがたいことだとつくづく思いました。

話を戻します。

そもそも工房への訪問の目的はいくつかあります。まず一つ目は信頼関係の構築です。一人の製作家が製作できる本数は、個人差がありますがヴァイオリンで年間8〜12挺くらいになるのではないでしょうか。チェロの製作は労力が何倍もかかるので、それが加わればもっと減ることになります。人気作家ともなれば世界中から注文が入っていますから、私たちのようなディーラーへの割り当ては必然的に限定されてきてしまいます。その限られた割り振りを獲得するためには日頃の相互理解や信頼関係が必要になります。「あなたのところにぜひ作ります」という関係を築くことができているからこそ、取り扱いができている名品がたくさんあります。個人の方がクレモナへ行って買えるものは限られていたり、注文すら受けてもらえないというのはそのような理由があるからです。トップメーカーと認識されている製作家の作品をコンスタントに常に取り扱っていられるということは、実は製作家たちからも認められている証であって大変名誉なことなのです。一人の職人が丹精込めて一つ一つを作り上げているクレモナのヴァイオリンが、大変貴重で尊いものであるということを理解し、取り扱うことができる喜びを感じながらいつもこの地を訪れています。

次に、注文を直接細かく伝えたり、中には事前に材料を選ばせてもらえる、製作段階にあるものは途中の状況を見ることができるなど様々な確認を自身の目でするためということもあります。今回も遅れが出たり早まったりする入荷スケジュールを確認したり、新たなオーダーを幾年か越しで入れておいたり、どの材で製作してもらうのかなど実際に工房で選定をさせていただきました。私たちがご紹介、販売するこれらの楽器は単に製作家から買ったものを横に流しているわけではなく、無(ゼロ)の状態からどんなモデルで製作してもらうのか、どんな、またはどの材料で製作してもらうのかを事前に打ち合わせ、時にはその過程を見せていただいたりしながら時空を経て私たちの元へ届けられます。いわば製作家だけではなく私たちの想いも詰まった作品という意識を常に持っていますから、これらをお客様に気に入っていただき音を奏でていただけることは本当に嬉しいことなのです。

そのほかに、製作されるもの以外の楽器や弓の流通の情報を得ることもあります。新作の他の製作家の情報であったり、オールドや近代の楽器を実際に見たり買ったりすることもあります。ストラディヴァリに代表されるヴァイオリンの街ですから、当然様々な良質な楽器が日頃からたくさん集まって来ています(そういえば今回は博物館の展示のストラディヴァリではなく、実際にゴールデンピリオドの本物を手に取って堪能させてもらいました)。そのような流通の場であることから、製作家の証明書や、ブルース・カールソン、エリック・ブロットというオーソリティーらに証明や鑑定を依頼することができるというのも特筆するところではないでしょうか。現代では製作家自身の「私が作りました」という証明はもちろん重要です。今回も2件、過去の作品に対して(前オーナーの紛失による)製作家自身の製作証明書を書いていただきました。そしてこれはどういう楽器なのかという「鑑定」も今では科学の時代になって来ていることで、オーソリティーと言われる鑑定家では確率の高い鑑定が可能になっています。「国際評価のある鑑定書が付帯していないものはまず偽物」とまでいうと多少オーバーですが、「運悪く紛失やこれまで鑑定されておらず鑑定書が付帯していないものは、まずは鑑定書が付けられてから購買の判断をする」ということは大切なことです。余談ですが、未だに堂々と贋作、それも似ても似つかない作品を本物と信じて販売しているところ(日本でも海外でも)もありますから、消費者様がより考えて行動することが求められているのも確かです。こういうお店がお客様を結果的に騙しているだけではなく、その独りよがりが歴史を偽っているということを忘れずにいていただきたいと思います。実は、このような話もクレモナの工房で普通に交わされる会話で、彼らも特に日本の市場やどういうお店がどういうものを取り扱っているかなど、逆に情報収集の機会としているのも確かです。製作家であり、個人事業主でもあるわけですから、彼らにとっても商業活動を営む上で私たちからの情報、国内外での企画などのノウハウを知ることは重要だと言えます。

前置きはこの辺りにして、訪問した工房などをご紹介してまいります。過去にも何度も記事にはなっておりますので、「またか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、その「また」が重要であり、大切なことでもありますのでどうぞ最後までお読みいただけたら幸いです。

【第一日目】

【Hiroaki Sakamoto】

新たな楽器の選定や息子さんの楽器なども見せていただく。11月には私どもにも新たなラインナップが揃いそうです。

【Alessandro Voltini】

かつてトリエンナーレコンクールでチェロ部門ゴールドメダルを獲得した彼の工房に製作途中のチェロがありました。20年以上前にチェロを1挺作ってもらって以来毎年ヴァイオリンをコンスタントに入れて来ましたが、改めてそのチェロを見て感動し、3年待ちという条件で1つオーダーをいたしました。次作ヴァイオリンは1年後目処で入荷予定。

【Marcello Ive/ Dante Fulvio Lazzari/ Dario Occhipinti】

Ive氏には手持ちで持ち込んだ1995年製のヴァイオリンに製作証明書を書いてもらいました。Lazzari氏には製作中のヴァイオリンを見せてもらうとともに、池山はかつて教えを受けた間柄ということもあって、ペグのステイン(染め)についてやナット溝の角度などアドバイスを頂戴していました。Occhipinti氏にはオーダーの確認を行い、来年末頃からようやく製作に取りかかれるとのこと。こちら3人衆は多作家ではないということもありますが、なかなか入手に漕ぎつけるのに苦労をしますが、いつも誰かにはオーダーが入っているか、在庫を持っている状態にはなっています。

【Carlson & Neumann】

今回はEttore Soffritti, Carlo Giuseppe Oddoneに鑑定書を書いてもらうために持ち込み。

事前に画像で確認を取ってもらっていたので、良い鑑定結果をもらいスムースに事が運びました。

【Lorenzo Marchi】

クレモナのヴァイオリン製作の歴史の一端を担う名匠Marchi 氏は、ここ数年怪我や病気で製作数が減ったとはいえ、完成したヴァイオリン2挺とチェロ1挺を見せてもらうことができました。どれも20 年以上前に入手された良質な材で作られており、悩んだ末にCello の素晴らしさに惹かれていただくことになりました。おそらく年齢的にも彼の最後のチェロになろうかという作品。

【Stefano Conia Sr./ Stefano Conia Jr.】

いつもながら二人とも精力的に楽器を製作していました。特に父コニアはオーダーを常に上回るペースで製作し続ける80歳手前とは思えない豪傑ですから、時には持ち帰ることができる楽器がその場にあったりすることもしばしば。ただ今回は完成品で見た楽器4〜5挺はすべて売約済みでしたので、今製作中のヴァイオリンをいただくことになりました。

息子コニアはちょうど私たちのオーダーのヴァイオリンを製作中で、完成は来年1〜2月になりそうです。

【Kaori Fukuyama/ Shuichi Takahashi】

高橋さんとは秋からのコンソルツィオ・クレモナヴァイオリン製作者協会の日本展示会について相談と打合せなどをいたしました。11月には弊社がホストとなって札幌、名古屋、京都の店舗にて製作者協会の楽器を一堂に集めた展示会を開催いたします。

福山さんはかつての職場で一緒に働いた縁もあり、長く力を貸していただいている頼りになる女性で、エリック・ブロットにも認められる一流の技術を持った修復家です。この後、Conia父子に大御所Giorgio Scolari氏、高橋さん、福山さんを交えての昼食会にご招待いただきました。

【Manuele Civa / Guadalupe Chavero】

夫婦ともにヴァイオリンをオーダー。すでにオーダーを見越して製作にかかってもらっていたこともあり、Civa 氏のヴァイオリンはアンティーク仕上げのGuarneriモデルの完成品をそのまま購入することになりました。別途チェロのオーダーを久々に入れましたが、人気作家になっていることもあり2年待ちになりそうということ。

Chavero奥さんは息子さんが来年保育園に通うため製作作業の再開ができそうとのこと。それを見越しての新規オーダーをStradivari モデルで入れました。

【Emilio Slaviero / Luca Slaviero】

弓製作家父子。両者の弓オーダー及び選定と、今回は日本から持参したオールド・モダンフレンチボウ13本の鑑定書を依頼。合わせてコレクションを多数見せてもらい、中からヴァイオリン弓Claude Thomassin、チェロ弓Louis Morizot Frs.などを日本に持ち帰り。11月の弓フェアまでには本人らの弓全てが到着予定。

【Primo Pistoni】

郊外のため車での訪問を手配していましたが、急遽奥様の体調不良のため残念ながら今回キャンセルに。次作の進捗状況はまた改めて確認することに。

【Federico Fiora】

ヴァイオリンCapicchioni モデル(アンティーク仕上げ)をオーダー。25年後半製作開始予定。今回は裏板 (1枚板)を選定させていただきました。

【Vladimiro Cubanzi】

ヴァイオリンとヴィオラ発送確認。10月後半に入荷予定。合わせて工房にあったヴィオラ、Valerio Prilipko 2000年(410mm)購入。今回詐欺被害で宿泊難民になってしまいましたが、彼のねじ込みに救われホテルを確保することができました。彼は交渉が上手くいつも不思議な力を発揮してくれるという印象です。そして工房内の内輪のパーティーにも参加させていただき、ここでアメリカの著名なヒーリングアート画家カーク・レイナートさん夫妻と面識を持つことができました。余談ですがボガーロ・クテメンティ社のケースのアートシリーズはピカソなどの有名絵画が彩られたケースが発売されていますが、来年はこのレイナートさんの絵画シリーズが登場することになります。

【Francesco Toto/ Kazune Nemoto】

毎年恒例の工房でのパーティに招待されていましたので、他のスケジュール終了後なんとか顔を出すことができました。今回は挨拶だけで終わってしまったため、次作のオーダーについての確認をすることができず、後日改めて連絡を取り合うことに。

【第二日目】

【Marco Osio /Yoko Yachi】

Osio 氏にヴァイオリンを初オーダー。Stradivariの1703年モデルでの製作、裏板の材料も選定させていただきました。人気作家さんだけに完成まで2年待つことになります。奥様の谷内陽子さんは特にチェロ製作において高い評価と実績を修めてきた女流作家さんですが、私どもへ届くチェロがこの度のトリエンナーレ・ストラディヴァリコンクールに出品された素晴らしい作品で、まもなく入荷の運びとなります。

【Borja Bernabeu】

今回のトリエンナーレ・ストラディヴァリコンクールでヴィオラ部門最高位銀賞を受賞。次作をオーダー(これまでと同じ Guarneri モデル)。 25年秋入荷予定。

【Damiano Catesi】

昨年Bernabeu氏から優秀な若手製作家という前評判で紹介され初訪問。今回訪問したい工房だったのですが連絡方法を失念してしまっていたため、アポなしで訪ねる予定を組んでいたところ奇跡的に道で遭遇し後ほど伺うことに。今回のトリエンナーレコンクールのヴァイオリン部門で音響賞受賞、そして初のオーダーを入れさせていただきました。25年11 月入荷予定。モデルなど詳細は後日打ち合わせ。

【Silvio Levaggi】

次回入荷のヴァイオリンのオーダー確認。 26年頭に入荷予定。今年から奥様との合作でアンティーク仕上げのヴァイオリンシリーズを始めたということで2挺のGuarneriコピーを見せていただきました。

【Alessandro Menta/ Hideaki Kotera】

両者ともに新規オーダーと材料選定。来月11/20-21にヴィルトゥオーゾ名古屋駅前店での展示会企画に参加していただく予定でそれについての打ち合わせをいたしました。当日は製作デモンストレーション、立食パーティー、ミニ演奏会(Menta のピアノ演奏他)など予定しておりどなたもご参加いただけます。なお、小寺さんのヴァイオリンはトリエンナーレコンクール出品作がそのまま私どもの元に届きます。Mentaさんのヴァイオリンは名古屋の展示会にてご披露いたします。

【Akira Takahashi】

今回は本当に時間が限られてしまったため、高橋さんの工房へ立ち寄ることができませんでした。ご近所のMenta氏工房でお会いして一緒に昼食をいたしました。次回オーダーは後日メッセージを入れることに。

【Simeone Morassi / Giulio Morassi】

オーダーの確認。上海メッセ後に密に連絡を取り合うことで合意。その他共同企画などについても話し合っていくことに。今回はコレクションの中から楽器ではなく貴重な弓を選ばせていただきました。

【Danilo Fiorentini / Lorenzo Lo Prinzi 】

オフィスにて合流。その後夕食を共にいたしました。

Fiorentini氏 のヴァイオリンはすでに完成しており10月中に入荷。次作についてもオーダーし、来年春~夏の入荷を予定しています。

弟子のLo Prinzi 氏のヴァイオリンについても昨年に続き完成させてくれていたため、クレモナムジカにて展示しているその楽器を見せていただくことに(翌日購入決定10月中に入荷)。

以上が直接の工房訪問でした。なお、VOL.1で記述いたしましたが、直接工房でお会いできなかった製作家さんたちとはクレモナムジカ会場でお会いいたしました。お会いしたイタリアの作家さんたちは以下の通り。

【Bruno Fulcini 】オーダーヴァイオリン完成。10月入荷。

【Fabio Dalla Costa】 オーダー確認。25年~26年にかけて入荷予想。製作開始したら報告あり。息子Massimiliano Dalla Costaの楽器も見せてもらい今後はオーダーを予定していきたい。

【Alessandro Fendillo】ヴァイオリン初オーダー。Ornati モデルにて製作してもらうことに。材料は後日選ばせていただく。来春完成予定。

【Davide Negroni】チェロの新規オーダー(前回と同じ Strad 1703 年モデル) 、25 年 11 月入荷予定。

【Davide Somenzi】オーダーヴァイオリン完成。10月入荷(すでに入荷済み)。娘さん Noemi さんの ヴァイオリンも見せてもらい、クオリティの高さを確認。今後のオーダーを予定。

【Giulio Maisenti】 オーダーヴァイオリン完成、11月入荷予定。今後年 1 本ペースでオーダー予定。今回のトリエンナーレコンクールはヴァイオリン部門で 11 位と大きな成果を残しました。

【Nicola Lazzari/ Migiwa Lazzari 】昼食をともにしている間に肝心の今後のオーダー確認などを失念。会う機会は多いのでタイミングを見てまずは連絡を入れたい。

【Andrea Schudtz】Riccardo Bergonzi 1982年購入。今回は持ち帰れないので次回ピックアップすることに。

【Vettori Family】春のフィレンツェ訪問の際にオーダーしたLapo Vettoriのヴァイオリン(Guadagniniコピー)のオーダー確認。年内に入荷予定。

【Gianni Morassi】 今回は挨拶のみ

【Martin Gabbani】次作のオーダー、来年夏頃完成予定。

以上のように、常に連続して貴重なヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、楽弓が随時入荷してまいります。厳選しているからこその逸品を今後も自信をもってご紹介してまいります。

(代表取締役 杉田 直樹